
「秘密の花園」
1.「秘密の花園」 F.H.バーネット作 脇朋子訳
1849年にイギリスのマンチェスターで生まれました。
幼い頃に父親を亡くし、16歳の時に家族とともにアメリカに移住しました。
74歳で亡くなるまで、主にアメリカで過ごしました。
作家としての経歴
- 家計を助けるために作家活動を始めました。
- 1886年に『小公子』を発表し、成功を収めました。
- 1905年には『小公女』を発表し、さらに人気を博しました。
- 1911年、62歳の時に『秘密の花園』を発表しました。
バーネットは、子どもたちの成長と自然の力を描くことに長けた作家として評価されており、彼女の作品は今日でも多くの読者に愛され続けています。
2.あらすじ(ネタバレ注意)
物語の主人公は、10歳の少女メアリ・レノックスです。彼女はインドで裕福な家庭に生まれ育ちましたが、両親がコレラにかかり亡くなった後、見知らぬ伯父アーチボルド・クレイヴンの元に引き取られます。伯父は妻を失った悲しみから旅に出ていることが多く、メアリーは孤独で冷たい屋敷に放置されることになります。
メアリは初めはわがままで気難しい性格でしたが、ある日、屋敷の庭で閉ざされた秘密の花園を見つけます。この花園は、伯父の亡き妻が愛していた場所で、10年間も放置されていました。
メアリは、召使マーサの弟ディッコンとともに花園を再生させることを決意し、植物や動物たちと触れ合いながら心を開いていきます。
物語の後半では、メアリの従兄弟であるコリン・クレイヴンが登場します。彼は体が弱く、ほとんどベッドから出られない少年ですが、メアリとの出会いを通じて少しずつ元気を取り戻していきます。
3.心に残ったセリフやシーン
メアリ・レノックスが、おじさんの住むミスルスウェイト荘園にやってきたとき、だれもが、こんなに感じの悪い子どもは、見たことがないと言った。
メアリの裕福な家庭に生まれたが、父は仕事が忙しく、母はパーティーに出ることで忙しく、メアリが生まれるとすぐに乳母に渡してしまう。
そんなメアリは6つになるころには、とんでもなく自分勝手な小さい暴君になっていた。
バーネットの作品、「小公子」や「小公女」の主人公は、見た目も心も美しい子どもが描かれていたので、「秘密の花園」を読んで少し驚きました。
わたしは子供の頃は家では偉そうな「内弁慶」で、外では無愛想でかわいくない子どもだったので、主人公のメアリと自分を重ねて読み進めていきました。
メアリは、自分がむっつりとふきげんなのは、1つにはさびしいからだということに、これまで気づいていなかった。コマドリにみつめられ、自分でも見つめ返したそのときに、ふっとそれがわかったのだ。
「あたしと友だちになってくれるの?」
メアリはコマドリにむかって、まるで人間に話すように、話しかけた。
メアリが鳴きまねをしたり、呼んでみたり話しかけたりすると、コマドリは、チョンチョンと歩き、尾羽根を動かし、さえずった。まるで、そうやっておしゃべりをしているみたいだった。赤いチョッキはサテンでできているかのようで、ちっぽけな胸をふくらまして歩く様子は、とてもすてきで、偉そうで、かわいくて、まるで、コマドリだって人間に負けないくらい偉いんだぞと、メアリに見せびらかしたがっているみたいだった。
ああ!コマドリが、こんなにそばまで、近よらせてくれるなんて!コマドリには、たとえどんなことがあろうと、メアリが自分のほうへパッと手を出したり、ほんのちょっとでもびっくりさせたりなどしないということが、ちゃんとわかっていたのだ。それがわかっていたのは、コマドリが本当の「ひと」で、この世のどんな人にも負けないくらい、すてきな「ひと」だからなのだ。メアリはうれしすぎて、ほとんど息もできないほどだった。
メアリはたった9つで両親を亡くし、見知らぬ叔父の家に預けられます。
友人も知り合いもいないメアリ。そんなメアリの前に、かわいいコマドリが現れます。
コマドリがメアリのかたくなっている心を、やわらかくほぐしていきます。
コマドリの描写、コマドリをすてきな「ひと」と表現するところが、バーネットの素晴らしい感覚だと思いました。
自然の描写も美しく、読んでもらいたいところがたくさんあります(笑)
メアリの召使であるマーサの母親が、メアリのことを心配してマーサに伝えた言葉。
「ええか、マーサ、もし自分が、あんな大きいお屋敷で、おっかさんもおらんで、一人でうろうろせんといかんかったら、どんな気持ちがするか、考えてみい。おまえは、できるかぎりのことをして、元気づけてあげんといかんよ」
心配して気にかけてくれる人がいるだけで、心が救われることってありますよね。
マーサの弟、自然と動物のことを知り尽くしたディッコンと出会います。
ディッコンは動物とも仲良しです。不思議に思うメアリにディッコンは言います。
「卵を割って出てくるところから、ひなが巣立って、飛び方を習うたり、歌いだしたりするとこまで、ずうっと見とるから、あいつらの仲間のような気がしてな。ときどき、自分は鳥かもしれん、いや、キツネか、ウサギか、リスか、ひょっとするとカブトムシかもしれんと思えてくるんじゃ。」
ディッコンはメアリに、花の植え方や、気をつけること、動物との接し方を教えていき、メアリはディッコンのことをますます好きになっていきます。
こんな男の子がいたら、毎日が楽しそうですね。
メアリは従兄弟のコリンと出会います。コリンは体が弱く、1日中ベッドで過ごしています。
癇癪持ちのコリンが、メアリとディッコンと出会うことで、自然や動物の魅力に惹かれ、触れ合うことで、いきいきとしていきます。
お日さまの光が、まるでだれかの手が優しくそっとさわるように、コリンの頬を照らした。 コリンはさけんだ。
「ぼく、よくなるよ!そして、いつまでも、いつまでも、いつまでも生きるよ!」
生きる気力を失っていたコリンに、メアリ、ディッコン、動物たちや自然の美しさが、コリンに生きる気力を与えます。
コマドリの巣には卵が並び、コマドリ奥さんがその上にすわって、ふわふわした小さな胸と用心深い翼とで、それを温めていた。
(一人で歩けないコリンが、メアリとディコンと一緒に歩く練習をする姿を見て)
コマドリ自身、自分が両親から飛び方を教わったときも、こんなふうだったことを思い出した。
巣の縁ごしに熱心に男の子(歩く練習をしているコリン)の観察を、おおいに楽しむようになった。
コマドリ夫婦から見た、人間の姿の描写が素敵です。
気づいていないだけで、小鳥や動物たちに私達人間が観察されて楽しまれているかもしれませんね。
そしてラストでは、妻を亡くして傷心した心を抱えたまま10年間旅をしていたコリンの父親とコリンの再会へとつながっていきます。
4.気づいたこと
メアリ、コリン共に裕福な家庭で生まれていますが、二人共孤独の中で過ごしていました。
子どもである二人にとってはそれがあたりまえの環境で、それが「さみしい」ということもわからず、癇癪を起こしてしまいます。
子どもであるがゆえに自分で環境を変えることもできません。
メアリの両親の死によって、大きく環境が変わっていきます。
美しい自然や動物たち、周りの人達の働きかけによって、人はより良く変わることができると気づきました。
メアリの両親、コリンの父親、どちらも子どもとしっかり向き合っていないところも刺さりました。
わたしは独身で子どもはいませんが、姪としっかり向き合うことができていなかったのではないかと、この本を読んで突きつけられました。
姪が小さい頃に義兄が亡くなりました。
そのことについてどのように話せばよいかわからず、遊びに連れて行くことしかできませんでした。自分のことででいっぱいいっぱいになり余裕がなく、姪の様子をしっかり見て、関わることができていなかったのではないかと思います。
自然の素晴らしさ、魔法がかかったように草花が芽吹く不思議、動物も人間と同じように感じているということを教えられました。
5.これからの行動
感動は常に目の前に広がっている。地面を見るとアリが一生懸命働いている、空を見ると小鳥が歌い、巣を作って子育てをしている、季節と共に自然が移り変わっていく奇跡。
そのようにして世界を見ていくと、生きているだけで素晴らしいと感じることができます。
マーサの母親のように、助けが必要な子どもたちや、大切な人たちの支えになりたいと思いました。
そして何より、気持ちに余裕がなくなっている自分の心が、この本を読むことで優しい気持ちで満たされました。
「優しい気持ちで満たされたい」と思われたら、「秘密の花園」をぜひ読んでみてくださいね。
何気ない日常の風景が、とても美しく見えてきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
