くまとやまねこ

1.「くまとやまねこ」作 湯本香樹実 絵 酒井駒子

 湯本香樹実さんと酒井駒子さん——この夢のコンビによる「いのち」をテーマにした名作絵本、『くまとやまねこ』(2008年刊)と『橋の上で』(2022年刊)は、日本はもとより世界でも広く読まれています。そしてこの度、世界を代表する書評誌「カーカス・レビュー」(アメリカ)と世界最大規模の児童図書館であるミュンヘン国際児童図書館より、それぞれ“今年の本”の一冊として選定されました。
 紛争や軍事衝突、ショッキングな事件や報道、社会の急激な変化が続く中、あらためて「いのちのかけがえのなさ」に向き合うことができるこの2冊の絵本が、世界でも注目されています。(プレスリリースより引用)

2.あらすじ(ネタバレ注意)

 ある朝、くまは最愛の友だちであることりが突然死んでしまい、深い悲しみに暮れます
くまは小さな箱を作り、その中にことりを入れて、どこへ行くにもその箱を持ち歩くようになります。悲しみのあまり、くまは家に引きこもってしまいます
 しかし、ある日窓を開けると良い天気だったので、くまは外に出ることにします。川べりで、くまは見慣れないやまねこに出会います。やまねこはバイオリンケースを持っており、くまはその中身が気になります。やまねこは、くまの箱の中身を見せてくれたら自分のものも見せると言います。くまが箱を開けると、やまねこはくまの悲しみを理解します。
 やまねこはバイオリンを取り出し、くまとことりのために演奏してくれます。その後、くまはことりを森に埋めることを決意します。やまねこはくまを旅に誘い、くまはタンバリンをもらって一緒に行くことにします

3.心に残った場面、言葉

「ああ、きのうはきみがしんでしまうなんて、ぼくは知りもしなかった。
もしもきのうの朝にもどれるなら、ぼくはなにもいらないよ」
くまは、大つぶのなみだをこぼしていました。 

明日も明後日も、自分も周りの大切な人も、生きていて当たり前って思っています。
明日生きているという保証は何もないのに、、、。

 くまの悲しみを理解してもらえず、くまは家に閉じこもってしまいます。
ひさしぶりに外に出て、やまねこと出会います。

「くまくん、きみのもってるきれいな箱のなかをみせてくれたら、ぼくもみせてあげるよ」
くまはまよいましたが、箱をあけました。
やまねこは ことりをじっとみつめていました。それからゆっくりかおをあげると、いいました。

「きみは このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。ことりがしんで、ずいぶんさびしい思いをしてるんだろうね」

「きみとことりのために、一曲えんそうさせてくれよ」

身近な人の大切な人が亡くなった時、言葉が出ませんでした。
やまねこの、くまの気持ちに寄り添う言葉、こんな言葉を伝えることができたらなと思いました。
やまねこの演奏を聞きながら、くまはことりといっしょにした楽しかったことを思い出します。

「ぼく、もうめそめそしないよ。だって、ぼくとことりは ずっとずっと友だちなんだ」

「ずっとずっと友だちなんだ」この言葉は、くまとことりの大切な時間を、永遠に感じることができます。
また、亡くなったことりにとっても救いの言葉になると思いました。

やまねこがくまに言います。
「町から町へと旅をして、バイオリンをきいてもらうのがぼくのしごとなんだ。きみもいっしょにくるかい?」
うまれてからいちども、くまはじぶんの家をはなれたことがありません。それに、やまねこみたいに、バイオリンをひいたりすることもできないのです。
でも、しらないところを旅するのは、すてきなことのように思えました。

やまねこは、ぼろぼろのリュックサックからタンバリンをとりだしました。
ずいぶんふるいタンバリンでした。
いったいことタンバリンは、だれかがたたいていたのでしょう。
やまねこにも、ずっといっしょだった友だちがいたのでしょうか、、、。
くまはやまねこに、むかしの友だちのことをきいてみたいと、すこし思いました。
でも、きくかわりに、いいました。
「ぼく、れんしゅうするよ。おどりながら、タンバリンをたたけるようになりたいな」

ねこがくまの心に寄り添うことで、くまの心にも変化が起きてきます。
やまねこの古いタンバリンを見たくまもまた、やまねこの過去を想像します。
大切な人の死は本当につらいものだと思いますが、それを救ってくれるのもまた人なんだなあと思いました。

4.気づき

大切な人の死は怖く、考えないようにしていました。
でも人の死は100%確実なもの。しかもその死がいつ訪れるかわからない。
それなのに、明日も明後日も1年後もずっと生きていると思っています。
一緒に過ごすことができている貴重な時間を、おざなりにしていたなあと気づかされました。

大切な人を亡くした人にかける言葉。亡くした相手の気持ちにほんとに寄り添うことができていたのか?
義兄が亡くなった時、姉とまだ小さい姪たちになんと言葉をかけてよいかわかりませんでした。
しばらく動けなくなった姉の代わりに食事の用意や買い物をしたり、姪たちには遊びに連れて行くことしかできませんでした。
義兄に死についてなんて話せばよいか、わかりませんでした。

ねこの言葉 「きみは このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。ことりがしんで、ずいぶんさびしい思いをしてるんだろうね」


ねこのように、くまの気持ちに寄り添い、共感する言葉をかけることができていなかったなあと思い知らされました。

5.これからやっていこうと思うこと

「今日1日生きていることは当たり前ではない」ということを思いながら、大切な人と過ごす時間を大切にしようと思います。

大切な人を亡くした人には、自分の思いを伝えるのではなく、相手の気持ちに寄り添う言葉を伝えられるようにしようと思います。

大切な人の死を怖いと感じている方、身近で大切な人を亡くされた方にどう接していいか悩んでいる方、「くまとやまねこ」読んでみませんか?
モノトーン調でシンプルなイラストですが、くまの表情やことりのかわいいしぐさ、ねこがくまのためにヴァイオリンを弾く姿など、想像力を膨らませ、優しい気持ちになれます。

この絵本が、あなたの大切な人との時間をさらに大切にするきっかけとなるかもしれません。